先に、いちばん大事なことを言ってしまいます。
依頼を受けて、私が最初に渡すのは、見積書でもデザイン案でもありません。ただの紙が一枚です。 そこには、アプリの話は一行も書いてありません。
ご相談に来た方はたいてい、きょとんとします。「アプリの相談に来たんですけど」と。でも、ここを飛ばして作り始めた道具は、ほぼ確実に外れます。今日はその理由の話をさせてください。
「ほしいもの」と「困っていること」は、たいていズレている
よくあるのは、こんな相談です。
「予約管理のアプリを作ってほしい。お客さんが自分でネット予約できるやつ」
ふつうの制作業者なら、ここで予約システムの見積もりを出します。機能を並べて、金額を計算して。でも私は、まだ電卓を叩きません。代わりに聞きます。「いま、予約のどこで、いちばん困っていますか?」
すると、出てくる本音はこうでした。
電話が鳴るのは、たいてい仕込みで両手がふさがっている時間。手を止めてメモを取り、後でカレンダーに書き写す。その書き写しを一回忘れて、ダブルブッキングをやってしまった。お客さんの前で謝った。あれが、いちばんこたえた——と。
この人が本当に困っていたのは「ネット予約の窓口がないこと」ではありません。「手を止めずに、消えない場所へ予約を残せないこと」でした。最初の言葉どおり立派なネット予約システムを作っていたら、本当の困りごとには指一本ふれないまま、数十万円が消えていたはずです。
だから、最初に渡すのは「問診票」です
その一枚の紙の正体は、問診票です。お医者さんが、いきなり薬を出さずにまず症状を聞きますよね。あれと同じことを、道具づくりでもやるだけです。
書いてある質問は、こんな具合です。
・一日でいちばん「またこれか」とため息が出る作業は何ですか ・それは一日に何回、起きますか ・今は、どうやってしのいでいますか ・もしその手間がまるごと消えたら、空いた時間で何をしたいですか
最後の質問が、いちばん大事です。「空いた時間で何をしたいか」が言えた瞬間、その人の困りごとは、ただの愚痴から「解くべき問題」に変わります。
正直に打ち明けると——この『困りごとを正しく掘り当てる工程』そのものが、私の商品の本体だと思っています。アプリは、掘り当てた答えを形にした、ただの容れ物にすぎません。
なぜ「作らない」ことが、安さに直結するのか
見積もりは、ふつう「機能の数」で膨らみます。あれもこれもと盛るほど高くなる。けれど、その機能の半分は「あったら便利かも」で、ふたを開ければ誰も使いません。お客さんは、使わない機能のためにお金を払わされています。
私は、まるごと逆です。問診ではっきりさせた「本当の困りごと」たったひとつに、まっすぐ効く道具だけを作る。さっきの予約の例なら、電話を取りながら片手で名前と日付を打ち込めば終わり。それが消えない場所に残る。ネット予約も、リマインドメールも、会員ページも、ぜんぶ作りません。
作らなくていいものを、最初に見極めている。 削る勇気が、いちばんの値引きなんです。
ときどき、お金になる仕事を、自分から断ります
問診の結果、こうなることもあります。「これは新しく作らなくて大丈夫ですよ。いまお使いの◯◯を、こう設定し直すだけで解決します」。目の前で、数十万円の仕事が消える瞬間です。
それでも、私はこれを正直に言うと決めています。要らない道具を売りつけた相手から、二度目の相談は来ません。一度きりの数十万円より、「あの人は、要らないものは要らないと言う」という信頼のほうが、長い目で見れば、ずっと大きいものを連れてきてくれます。
「うちのは、相談していいやつかな」と思った方へ
立派な要望に、まとまっていなくて大丈夫です。「なんとなく、これが毎日めんどう」。それくらいのぼんやりした困りごとを、一緒に言葉にしていくのが私の仕事です。
ホームページに、無料の「お困りごと診断」を置いています。数問に答えるだけで、あなたの困りごとがどんな道具になりそうか、その入り口が見えます。あの一枚の問診票の、簡易版です。
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これまで作ってきた道具は、ちいさなおくりものにまとめています。